東京地方裁判所 昭和58年(ミ)3号 決定
主文
本件申立をいずれも棄却する。
申立費用は申立人らの負担とする。
理由
第一本件申立の要旨
一 申立人甲野信用金庫は、信用金庫法に基づき設立された信用金庫であり、被申立会社である株式会社丙川(本社の所在地
東京都《番地省略》以下「丙川」という。)に対し、その資本金二〇〇〇万円の十分の一以上にあたる貸金残元金二億八四三二万七九一六円及びこれに対する遅延損害金債権を有する債権者である。又、申立人乙山工業株式会社は、丙川に対し、同じくその資本の十分の一以上にあたる売掛残代金一億六二五七万一〇〇〇円及びこれに対する利息金債権を有する債権者である。
二 丙川は、主にアルミ製品の製造加工を業として昭和四〇年六月に設立された資本金二〇〇〇万円の株式会社であり、発行済株式総数四万株中、代表取締役である丁原松夫が、その半数である二万株を保有する個人的色彩の濃い会社である。
三 丙川は、昭和五七年四月九日、二回目の手形不渡りを出して、その支払を停止し、支払不能の状況にあるので、破産の原因たる事実がある。なお、丙川は、同月一四日、東京手形交換所から取引停止処分を受けている。
四 しかしながら、丙川は、支払不能の状況にあるものの、次のような理由で更生の見込みがある。
1 一般に、メッキ加工業界は、利益率が極めて高い業種であるところ、丙川には、申立人乙山工業株式会社から納入された東日本一の技術を誇る機械設備があり、これを軸に利益率の高いカラーアルマイト加工を主体として受注すれば、平均月商五一〇〇万円が得られるはずであり、製造原価・販売管理費(従業員三一名体制)を三三一二万円に押えれば、営業利益として一七八八万円が得られるはずである。
2 戊田工業協同組合は、丙川の有する工場とその敷地(本社所在地に存する。)に買戻権を有するとして丙川に対し買戻しの意思表示をし、その明渡を求めて東京地裁に訴訟(昭和五七年(ワ)一五八三九号)を提起し係属中であるが、右買戻権の発生根拠である買戻特約は、その基本契約である売買契約の締結時になされたものではないので、物権的効力を有しない単なる再売買の予約にすぎないものであり、仮りに買戻権が認められるようなことがあっても、申立人甲野信用金庫との関係では戊田工業協同組合が買戻権の不行使を約していてその権利を主張し得ない関係にあり、しかも、申立人甲野信用金庫は、戊田工業協同組合に対し、更生に協力するよう依頼はしてあるから、工場・敷地の明渡問題が更生に支障になることはない。
3 資金繰りの点、人員確保の点は申立人甲野信用金庫がこれを支援する方針である。
而して、丙川には、会社更生法三八条に該当する事由はなく、よって、丙川に対し、更生手続を開始する旨の決定を求める。
第二当裁判所の判断
一 本件疎明書類、会社更生法一〇一条二項に基づく調査委員の調査報告、丙川の代表取締役丁原松夫の審尋の結果及びその他関係者の意向聴取など当裁判所の調査の結果を総合すると、申立の要旨一ないし三の事実が疎明される。
二 そこで、丙川の更生の見込みについて判断する。
1 丙川の更生のためには、事業経営の基盤である工場、敷地の確保が是非とも必要であるところ、前記賃料および各調査の結果によれば、戊田工業協同組合は、昭和五七年三月二四日付で丙川の工場、敷地に対する買戻権を行使したうえ、明渡訴訟(東京地裁昭和五七年(ワ)第一五八三九号事件)を提起し、現に係属中であることが疎明されるところであり、丙川が右訴訟に敗訴すれば経営の基盤を失いたちまち事業の継続を行いえない状況に至ることは明らかである。したがって、早期に右両名の和解が得られる必要があるが、丙川が工場・敷地を確保するような形での和解が早期に成立する可能性があるとの疎明はない。
2 仮に、右訴訟が速やかに進展し、丙川が右訴訟に勝訴することになれば、事業経営の基盤を確保できる状況となるが、その場合、戊田工業協同組合の債権はすべて更生債権となる。そして、調査委員の一応の調査の結果によれば、この場合の全債権者の債権総額は、二三億三〇八〇万円であり、資産総額は事業継続を前提として九億一八〇二万円である。ところで、一般に企業の債権者らは、少なくとも債務者所有の資産に見合う債権額の配当を期待するものと考えられるので、本件においても、前記資産総額九億一八〇二万円に見合う額の範囲で債権の弁済をすることとし、その余の債権の免除を受けるものと仮定した場合、それだけの額の返済が実行可能かどうかが検討されねばならない。
而して、申立人らの主張によっても、丙川には遊休資産はなく、右債権額を返済するには、事業収益によるほかはないところ、右の事業資産の回転によって返済が可能か否かを検討するに
(一) 前記調査報告によれば、今後の法人税等の実効税率は五六・五八パーセントであるから、二一億一四二八万円の税引前の営業利益を獲得する必要がある。
9億1802万円÷(1-0.5658)=21億1428万円
これを会社更生法二一三条所定の二〇年以内の枠の範囲に収めるには年間当り営業利益一億〇五七一万円をあげる必要がある。
21億1428万円÷20年=1億0571万円
(二) ところが、前記調査報告によれば、現況においては従業員はすべて退職し、昭和五九年四月から右工場における稼働が行われていない状況(退職従業員が同一場所で丁原松夫の経営する丁川(株)に出向稼働しているような不透明な部分がある。)にあり、これに見合う売上高の確保ができるかは極めて疑問である。
(三) 前記調査報告によれば、第一五期(昭和五四年九月期)、第一六期(同五五年九月期)には前記の数字を上まわる営業利益をあげているものの、これらは既に四、五年前のものであり、その後の建築業界の冷込みによる受注の落込みや非専業者の台頭の影響もあって、丙川の営業利益は減退の一途をたどっていることや、当時は減価償却を引当ててないものがあることからすれば、右は既に現況にあわない数字といいえなくもない。
(四) 申立人らは、丙川は年二億一四五六万円の営業利益をあげうるとしているが、申立人らの上申書によれば、これの算出根拠となっている数値は全て業界の平均値であったり、理論的計算値にすぎないものであり、丙川の実情にただちに適用することには疑問がある。
(五) 資金繰りに要する手元資金は全くなく、申立人甲野信用金庫が資金を投入するとしても、丙川は既に銀行取引停止処分を受けていることから、直ちに稼働に寄与するか疑問の状況にある。
右に加え、前記資料及び各調査結果によれば、大口債権者である戊田工業協同組合は丙川の更生に反対しており、計画案の可決を得るのに困難が予想されること、実勢の収益力は低収益の方向に減退しているとみるのが相当であること、機械設備に関しても訴訟が継続していること、帳簿が完備せず極めてあいまいな根拠しか把握できないこと、免除後の総債権額が過去のいずれの年間売上高よりも高いこと等が各疎明され、これらを総合考慮すると、過大な債務を返済できるかは大いに疑問であり、結局更生の見込はないと判断するのが相当である。
三 よって、会社更生法三八条五号により、本件申立をいずれも棄却することとし、申立費用の負担につき、同法八条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 藤井正雄 裁判官 末永進 生田治郎)